光る星の子インタビュー #03 Kieさん
『日本の星の子たちへ 言の葉で紡ぐSky』
✦Skyのお話の前に…。英語(翻訳)を仕事にしようと思ったきっかけを聞かせてください。
仕事にという意識は実は特にありませんでした。元は心理学系の職務を目指していたので、最新の理論を学び、映画を字幕なしで見られるようになりたいという夢もありアメリカの大学に行きました。英語はほぼこの留学期間で習得した形です。
色々あって院への進学は諦め、帰国後は1年ほど空港の地上職員をしていました。
言語は文化の一種なので、英語も使い続けてないと忘れていく一方です。英語が使える仕事はしておきたいと思っていた際に「大学教授が秘書を探している」というお話をいただき、5年務めました。もともと米国病院で勤務されていた先生で、その関連で秘書業務中は通訳や翻訳にも携われたんです。
仕事を通して言語の違いの面白さや、日本語の美しさや自由さを改めて感じたのと、愛猫がその頃発症し、在宅で英語を活用できる仕事に就きたいという思いからTGCの募集に応募した、というのが、結果的に翻訳が仕事になったきっかけと言えます。
✦英語のここが好き、という所はありますか?
具体的ではないのですが、英語が分かると本当に世界が広がります。英語と近い言語も多いので、他言語を学ぶ際に英語を基準にできるのもものすごい利点です。(ドイツ語の勉強では、日独ではなく英独辞書を使っていました)
あと私はかなりのオタクなので、海外のコンテンツ情報を先行収集できるのは最高だと感じています。日本では未公開のものも英語で見たり読んだり、字幕よりも深い理解が得られますし、世界中の同士と意思疎通が図れるので、英語圏の作品が好きなら英語を学ぶことをお勧めします。
✦Skyをプレイしはじめたきっかけは?
かなり早い段階から運営側のお仕事に興味があったのでしょうか?
風ノ旅ビトの開発陣がスマホゲームを出す、というワールドリリース直前の記事を見て配信を待っていました。
Skyのリリースは、前職(先述の大学教授秘書)の任期が終了し次を探していたのと同時期だったんです。外資企業も視野に入れ始めた時にタイミングよく公式アカウントから採用案内があり、記念のつもりで応募しました。なので、応募書類のカバーページにもポジションへの興味より、いかにSkyが好きで助けられているかを書いた記憶があります。
数回のオンライン面接(PCの向こうが秘密のエリアのあそこだ!って感動したのを覚えてます)と翻訳テストを経て、ありがたいことに業務委託という形で採用いただきました。
ちょうど東京ゲームショウ2019で来日されていたスタッフと直接面接の機会も設けていただき、Jenovaに直接お礼を言えただけで満足という気持ちでした。ゲーム業界に詳しいもっとふさわしい人がいるだろうから、たぶん無理だろうなと思っていたので、ずっと(なんなら採用後も)半信半疑でした。

当時の募集ツイート(左)。リンク先は現存していませんが、翻訳・SNS運営など様々な業務内容であることが記載されていたとのこと。
右は採用から丸2年のご報告。
✦ローカライズではどんな点を一番重視していますか?
基本は元のニュアンスに最も近く、かつSkyらしくなるようにという点を心がけていますが、状況に応じ意訳や言い換えが必要な場では伝わりやすさを優先することもあります。(その際は開発担当者に確認と承認を得るようにしています)
また、私が参加する前に創りあげられていたローカライズがあるので✧1、それを保つことも常に重視しています。
加えて、季節等のはっきりしたテーマに沿うことはもちろん、ゲーム内テキストや投稿等で何度も目にすることになるので、言いやすさや字面の読みやすさなども考慮しています。
アイテム名では、Skyらしさや日本語的な可愛さ、楽しさ美しさも出したいと考えることが多いです。新アイテムの発表では基本的にビジュアルより名称が先に出るので、気になるな、身に着けてみたいなと思ってもらえるような名前にしたいという気持ちもあります。
(一番最初に訳した『光海月の雨傘』の際に「もっとSkyっぽく」というダメ出しを沢山された記憶が刻まれているから、という面もある気はします)
✧1: Sky日本版リリース時のローカライズを担っておられたのは、Ritzさん・Yuiさん・Reikaさん。「星を紡ぐ子どもたち」という訳もこの三方によるもの。

✦これまでの訳で気に入っているものを教えてください
パッと思いついたものは、光海月の雨傘、想いを編む季節、花笑む日々、夏灯りの日々、憶いの碑、祖たる賢者、静けさの庭、自然の波編みヘア、来福竜の式服あたりです。日本語ならではの響きが好きみたいです。
変わり種だとthatskyshopの峡谷の大精霊のピンバッジの詩✧2 は(Ritzさんの監修は受けましたが)我ながらよく出したな、と思ってます。
思い入れが強いのは、新しいエリア名の下に表示されるサブタイトルですね。一発OKが出ることはほぼなくて、試練のものは特に大変でした。
✧2: ピンバッチは完売していますが、今もショップページで勇ましい詩を読むことが出来ます。→商品ページ(※サイトメンテナンス中はアクセス不可)
✦砕ける闇の季節の詩は特に大変だったと思います。印象に残っているエピソードはありますか?
あの詩はMirenさんがまず訳を考え、それを基にzoomで相談しながら調整するという方針をとったのですが、最終的に私の色が強くなりすぎて申し訳ないなと思っていたところはあります。
あまりにも状況が理解できない箇所は季節と詩の担当者に確認しつつ、もともとの語彙を保ちながら日本語でも詩的表現になるように頑張ったのですが、どこまでできていたかは不安しかないです。
Mirenさんと私の中では漢字の読み方が全て決まっていたんですが、そっちの読みもいいね、と思いながら皆さんの感想や考察を読ませていただいてました。

Mirenさんとの一枚(左/東京ゲームショウ2022会場にて)
「砕ける闇の“虚”」の読み方に、チーム内でも衝撃のやりとりが笑(右)
✦AURORAの歌詞を訳す時に気をつけたことはありますか?
歌詞訳は、別のスタッフが翻訳したものをベースに私の方で最終調整をしました。元の歌詞から意味を変えたくはないのでなるべく直訳でありながら、プレイ中の表示に適した文字の長さの調整と、見えている映像とつながりを感じられるように気をつけていたと思います。
✦Xで書庫大精霊がシェアメモの作り方を解説したものがありました。グローバル版が先行ポストされた際、一部の日本の星の子たちの間で大精霊の一人称は何だろう、と話題になったのはご存知ですか?(ちなみに「私」の読み方は…?)
存じていますし、話題になるだろうと思っていたので、語調については訳す前に開発チームに確認を取ってから、あのような形に訳させていただきました。
書庫の大精霊様の一人称は、訳す機会をいただく前からずっと私の中では「わたくし」です。

大精霊様のお言葉、原文は “It‘s me – The Elder from the Vault !”
✦他のゲームのローカリゼーションとの違いを感じたり、参考にしたりすることはありますか?
他は携わったことがないのであくまで予想ですが、私はものすごく恵まれていると思います。疑問があれば直接開発チームや担当者に確認が取れる上に、状況によってはより分かりやすくなるよう原文を変更してもらえることもあります。監修のRitzさんからも、細部を理解した上ですぐに的確な返答をもらうことが出来るんです。こんな環境は他にはないのではと感じています。
Sky自体が特殊なゲームなので、クエスト等のテキストにおいて参考にしたことはほぼないですが、システムや専門的なものについてはゲームをプレイされる方に馴染みある表現になるように、自分がプレイしている他のゲームのテキストを読み比べたりはしています。
✦ローカライズに着地点があるとしたら、どんな所でしょうか?
着地点と考えると難しいですが、一番はSkyの世界を日本語の枠内で楽しんでいただくことなので、「プレイヤーさんに届くこと」がゴールと言えるかもしれません。

✦Kieさんのお仕事を含む一日の過ごし方は?
お仕事とプライベート(ライブ版)のSkyイン割合も聞きたいです。
以前は、余裕がある日は仕事後1時間くらいはひたすら猫をなでたり眺めたり、それから家事等を済ませて食事しながら録画していた番組見て、お風呂入って、猫抱っこしながら寝るまでゲームしたりマンガか小説読んだりがルーティンでした。
Skyのインは、今は正直仕事でのプレイの方が多くなっています。特に季節やイベントはゲーム内テキスト訳のためにクエストを何度も繰り返し確認するので、ライブ版でする頃には悲しいかな作業に感じてしまうことも…。
まだ時々、ただボーっとしたくてインすることはあります。
✦一星の子としての感想や、フレンドさんとの思い出を聞かせてください。
また、ライブ版をプレイした時に、翻訳時と違う印象を受けることはありますか?
Skyでは水中から水面を見上げて過ごす時間が一番心地いいなと感じます。水中でぼんやりする色と音と、時々近くを通る誰かの足音が、一人でぼーっとしつつも独りになりきれない感じがして好きなんです。

Kieさんのアカウントでは水中からの写真が多く投稿されています。
以前はこうしたスポットが多くあったのだそう。
TGCの募集に記念にでも応募しようと思うほどSkyにはまったのは、やっぱり最初のころに出会ったフレンドたちのおかげだと思います。毎晩のように辺鄙な場所に陣取ってだらだら朝までしゃべったり、テーブルを使ってどこまで壁を登れるかとか、花火杖を打てるだけ打ってみたりとか、一緒に楽しんでくれる子たちが居たことが、あの時間が、いまだに私にとってのSkyそのものだと時々思い出します。
翻訳のためのプレイは大体一人なので、ライブ版でたまたま居合わせた星の子さんたちと一緒に遊べる時は毎回新鮮な気持ちです。一緒に飛んでくれる皆さん、本当にありがとうございます。
✦最後に…。かなりの読書家でいらっしゃるとお見受けしています。
影響を受けた本があれば聞かせてください。
翻訳時にお世話になっているのは『ことば選び辞典』シリーズ。装丁に惚れて読み物としても好きなのは『美しい日本語の辞典』という書籍です。

あとは翻訳に対し影響を受けたのとは違うのですが、ずっと覚えているし時々思い返したり読み返したり、という本を選んでみました。ほぼほぼ有名どころではないかな、と。ミステリーとファンタジーとSF多めです。
✧「たくさんあるのでカットしても構いません」とのことでしたが、せっかくなので全て掲載します。作者敬称略。タイトルはシリーズ名を含みます。(書式の都合で読みづらくなり申し訳ありません;)
✦森博嗣『S&M』『四季』『W』『WW』『百年』『そして二人だけになった』『スカイ・クロラ』(高校の頃に読み始めて新刊がでると手に取ります。ここに書いた作品以外も好きな作品が多すぎてしぼれません。)
✦トールキン『指輪物語』『仔犬のローヴァーの冒険』 ✦恩田陸『月の裏側』『Q&A』『三月は深き紅の淵を』 ✦米澤穂信『小市民』『折れた竜骨』『さよなら妖精』 ✦向山貴彦『童話物語』 ✦ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『ダークホルムの闇の君』『九年目の魔法』 ✦ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』『創世記機械』『仮想空間計画』 ✦森岡浩之『夢の樹が継げたなら』 ✦ロバート・A・ハインライン『夏への扉』 ✦ヨースタイン・ゴルデル『ソフィーの世界』 ✦J・K・ローリング『ハリー・ポッター』 ✦あさのあつこ『No.6』 ✦小林泰三『メルヘン殺し』 ✦機本 伸司『神様のパズル』 ✦五条紀夫『イデアの再臨』 ✦日崎アユム『蒼き太陽の詩』 ✦クリス・ダレーシー『龍のすむ家』 ✦ニック・バントック『不思議な文通』
✦Kieさん
「大精霊様たちは箱推しで、他にも好きな精霊さんはたくさんいますが、一番応援したいのは希望の番人さん。
コーデはその時々でイベントや季節に合わせてですが、髪型は結局ねこに戻っちゃいます。持ちものが増えてもずっと猫の使い魔を連れ歩いてます。」
※当記事は2025年10月にTGCを通してインタビューを依頼し、文書で回答いただいたものを元に構成しています。本文・画像共に確認を経て掲載しています。転載は固くお断りします。
お忙しい中回答下さったKieさん、インタビューを快諾下さったTGCチームのみなさん・特に架け橋となって下さったSAMOさん、本当にありがとうございました。
✧Skyローカライズをもっと知りたいという方は、こちらもぜひ。
YouTube公式配信【Meet Sky’s Localization Team!】
https://www.youtube.com/live/tsykn9jlL_4
X【星を紡ぐ放送局】2023.4.22
https://x.com/i/spaces/1ynJOaYRbDAKR
※今後Xの仕様や規定変更により聞けなくなる可能性があります
✧Special Thanks(質問協力・アドバイス)
れいさん@Skyaccoray ぽみさん@pomizun
Sky考察座のみなさま
※タイトル画像は秋が作成したものです。Kieさんの星の子さんではありません。