つづき。
浜辺
昔、海辺へ初日の出を見に行ったことを思い出す。
誰かが流木で焚き火を始め、缶コーヒーを片手に、ここで生きるみんなと日の出を待ち侘びる。
冬の凜とした空気、凪ぐ水面、人の動きに巻く磯の香り。
吐く息に染まる様に、だんだん白む水平線。
赤くひりつく頬に似て、夜を裂く、鋭くも柔らかな光。
静かで慶びに満ちたハレの日。
次の日に見たって同じものがそこにあるんだろうけど、特別だとは思わないだろうな。
夏に見るこの景色の方が、あの日を思い起こさせる。
アーチの向こう
風に揺れる風鈴をくぐり、
橋で結ばれた砂嘴(さし)を渡り、
その先へ行くと。
でっかいお香だぁ…!
普段小さいものが大きくなったり、大きいものがミニチュアになると、愛嬌が生まれる。
アニバーサリーのオレオくんもそういうところあるよね。
でっかいお香の周りには、誰かがご丁寧に敷物を敷いてくれている。
それでは遠慮なく。
お香が静かに、熱でほどけてゆく。
煙が夜の中を柔らかく揺蕩う。
星の瞬きと、誰かの呼吸に合わせれば、
だんだん意識が溶けていく。
野晒しで開けた場所、それなのに、きっと誰かに守られている、
そんな心持ち。
まだ横になりたい……ぽやぽやと微睡んでいるうちに、
気づけば、夜明けか黄昏か、夢か現か、分からなくなって、不安に駆られ体を起こす。
黒い海と橙の空に、黄色い日がぼんやり浮かんでいる。
これは「水天一碧(すいてんいっぺき)」もとい「水天一オランジェット」というべきか、甘ったるさと香ばしさと柑橘の酸味を、口の中には何もないのに喉の奥が覚える。
小舟が一艘進んでいく。
あの舟に誰か乗っていて、僕を迎えにくる様に思えた。
……僕はどこにいるんだろう。
夢の景色を背に、門へ向かう。
いつもより急ぐ鼓動に足が追いつかない。
帰ろう。早く。
星の子さん
心と頭があわあわしながら歩いていたら、気づけば庭の中。
星の子たちがいる。
浮いていたり、身を隠したり、演奏していたり。
静けさの庭だと呼ばれているのに演奏するってどうなんだろうと思いながらああこれは不安に駆られているからそんな感情が浮かぶのだと、頭を振って不粋を祓う。
混乱して幸せを見失っている。
透明なギターを奏でる星の子さんの側へ。
練習中だったのか、途切れたり弾き直したりしながら聴かせてくれた。
拍手をするとお辞儀と投げキッスと頂く。
どこかの家から聴こえてくる。リコーダーやピアノを練習してる音って、不思議と良いよなぁ…とふと思う。
昔そんな事を言われた記憶があるから、そう思えるのだろうか。
誰かを受け入れて、自分を受け入れてもらう。
そこにはお互いの優しさと思いやり要るんだね。
ありがとう。
これからも僕らが、空が移りゆくとしても、
ずっと、今ここにある心を、忘れませんように。
おわり。