音楽こそ私にとってのアイデアの原液といえる。
時にYouTubeやSpotify、はたまたレコードやカセットテープの物理媒体そのものまでもがアイデアの元となる。
ジャズにネオソウル、J-POPにHipHop、R&BやFuture Bassまでもが私の元となる。
この曲のMVを作るならばどのようなコンセプトで、どのような映像に、どのような編集を加えてやろうかを考えるとそこで生まれたアイデアは映像作品にもイラストにも言葉にも化けるんです。形を持たないモノを形にするのは職業病でもある。
ここでは私の映像作品が出来るまでを事細かに紐解いていく。
昼過ぎ、雨で街が灰色になっている時が大好きです。そんな中電気もつけずに音楽を聴いていました。カラーレコードに針を落としている時、緩やかなジャズを流れる半透明のカラーレコード盤に目をやりました。外の景色が静かに反射していて、少し奥が透き通って見えている。横には私のカセットプレーヤーが置いてある。透明な蓋が綺麗で愛用しているプレーヤー。こう見ると私の周りには透明なものが多いと思いました。
「次の動画は透明感のある、それでいて雨の軽い匂いを感じるようなのにしよう」
コーヒーを飲み干して、カメラをセットアップします。
フリー映像を使うときもあれば、いつの日か撮っておいたストックを使うときもあれば、今日みたいにその日暮らしで撮る時もある。
どんなカメラにしようか。手振れは必要か、映像の色彩はどうしようか?今日は傘を差しながらの撮影だから可能な限り軽いカメラにしよう。
今日はDJI Osmo Pocket 3を片手に街に出ます。
https://www.dji.com/jp/osmo-pocket-3
人でごった返している映像は今日のコンセプトではない、故に都会かつ人の少ない場所の映像にしよう。ついでに周辺の美味しいラーメン屋でも探しておこう。どうせ日本にいるなら日本の映像を新しく撮っておきたい。あと普通に麺類の気分。
電車に乗ります。閉じた傘の先端から余った雨粒がしたたり落ちている。駅のホームを向いてスマホをいじる人もいれば、黙って突っ立ってる人も、顎を挙げて景色に風情を感じている人もいる。全員に許可を取って、この場も映像に撮りたいと思いましたがやめました。
電車が来てドアが開くが、ドアの端に寄るほど人が出てこなかった。今日は空いています。発進するときに足を滑らせないか冷や冷やしながら靴を踏み込む。雨粒が斜めに流れるこの感じがマジで好きです。気づいたらその景色を収めていた。
ほどなくして駅を降りる。商店街を超えた先の団地がありました。上を見ると貯水槽がある。なんだかあまりに普通で逆に趣を感じる。
あの貯水槽の端に星の子が座ってたら、こちらに気づいて手を振ってくれるだろうか。そう思いながら自分の想う映像+5秒の動画を収める。これは編集に必要な余韻。
星の子は傘をさすんだろうか?それとも無邪気に水たまりで跳ねるのだろうか?きっとこの水たまりは編集で反射を足せるな、撮っておこう。
裏路地がある。ビール瓶の入っていたであろう青と赤の箱が積まれている。今にも猫の親子が出てきそうな薄暗い路地。●REC
こういう一枠も大切だ。我々からしたら普通でも、この世界に遊びに来た星の子にとっては魅力的に映るかもしれないから。
そんなこんな撮影をしてたら
ポン
腹が
ポン
減った。
ポン
丁度ビール箱の上にある排気口から白い煙と共に旨そうな香りがするので入ります。
古びた老舗、ではなく新しめのランチレストランでした。メニューを事細かに記述するなんて、飯テロはやめておきます。私もつらくなるので。
毎度私の作る実写合成作品【空幻想】は長くて3分、短くて十数秒程度。これで映像は十分だろう、あとはカメラを回さずに自分の目で景色を眺めながら帰ります。イヤホンでHaruka Nakamuraの曲をたれ流して
「この流れる感じ、いい。コンセプトを細かくしよう。ピアノのように情緒的だけどフラットな感じにしよう」
等と考える。
「はいもしもし、あーお世話様です。はい。はい。そちら、あーちょっと今の案件(Sky創作)が終ってから手付けさせていただいてもよろしいでしょうか。はい、ありがとうございます。もし何かあれば気楽にご連絡ください。はい、では失礼します。」
スマホを機内モードにする。これがフリーランサーだ。なめるなよ。
帰りにコーヒーを買って帰ります。タリーズコーヒー、お前はどこにでもいるのか?
―
家に帰りコーヒーを淹れる。朝から晩までひたすらコーヒーを飲んでいる。これがフリーランサーだ。責めるなよ。
特別眠いわけではない、ただ好きなんです。
SDカードをPCに差し込み、先ほど撮った映像データを映す。
この時点ではこれらの映像をそのまま動画に使うことはできない。
実は映像にはいくつもの種類がある。今回私が撮ったのはLOG撮影というものだ。映像内にある色がかなり薄いのが特徴で、いわば映像は裸の状態。ここに色彩という服を着させる必要がある。これをカラーグレーディングという。
左:グレーディング後 右:S-Gamut3.Cine/S-Log3
https://www.sony.jp/ichigan/a-universe/color-of-cinema/?srsltid=AfmBOopDKzlFxYhqLvywSf-Kcys7oR-57iJp7–47fLwYuEa4ueqi-R4
Lutという、あらかじめ色合いを作っておいたデータを適応すると非常に楽だ。もちろん自分で一から調整するのもできるが、そこまで時間をかける理由もない。今回はSONYの公式クリエイターAKIYA氏の作成したLutを使用させて頂きます。その名も―
FILM TONE
なんだかかっこいい名前だ。横文字だし。
その名の通り、フィルムのような強いコントラスト。鮮やかな青と赤。きっと先程撮ったビールの箱が映えるだろう。貯水槽の背景の空もきっと鮮やかに、けれども優しく映るはずだ。
→Lut適応後→
こうして映像に服を着させて、動画編集にありつくことができる。
コーヒーを淹れよう。
まずは簡単に並べてみる。
「ん↑~、もう悪くなくない?これで完成で良くない?」
良くない。
とりあえず黒帯を付ける。黒帯とは、映像の上下に入る黒い余白の事。
元々、時代が移り変わるにつれて映像の標準比率は変わっていった。技術的な理由もあるが、人々の美意識の変化も一つの理由だ。これを入れると映画のよな雰囲気になるのは、映画館で映像を流す際に映像の比率をスクリーンに合わせるためにこれらの黒帯をわざとつけるからだ。
昔は縦横が6対4の比率、いわばロクヨンと称される比率で、映像の左右に黒帯がついていたが、近年は上下につくようになった。
今回はスナップショットというよりかは映画のような雰囲気を出すために映像を2.29:1の比率に変える。有名どころだと映画【インターステラー】と同じ画面比率だ。この比率をシネマスコープという。
これは別の話だが、たまに私の動画ではシーンによって縦横比が変わっているのにお気づきだろうか?例を挙げると私のcinecalation(オマージュMV作品)の一つである【あふれるほどの感謝を、Sky社会人コミュニティに贈る】では、1分15秒当たりから縦横比がゆっくり変化している。
→
【あふれるほどの感謝を、Sky社会人コミュニティに贈る】
https://www.youtube.com/watch?v=MWcB5Hm2Uo8
「ん↑~、これで完成で良くない????????」
良くない。
そのまま音を使っていもいいが、私の動画はほとんどの音声が後付けだ。これはカメラに搭載されているマイクでは音質が不十分であるからだ。
映像は良いとして、ここから音を追加していく。
雨は、傘にコーヒー豆をこぼして傘雨の音、手にローションを塗って叩くと遠くの水たまりの音、バンギの木の実を乾燥させた雨の音を作るための楽器もある。これらの小道具を駆使して、映像が無くても状況が分かるように音を重ねていく。
ここで紹介しよう、今日活躍するマイクはZoomから出ている―
シェフの気まぐれ H6/BLK
かっこいい名前だ。前半部分は私が勝手につけた名前だ。
お手軽だが、趣味から本業まで抜け目のない子だ。
ZOOM H6/BLK マイクアタッチXYH-6
https://zoomcorp.com/ja/jp/handheld-recorders/handheld-recorders/h6-handy-recorder/
いよいよ動画の完成も見えてきた。コーヒーを淹れましょう。
次はこれらの音源を調整する。通常皆はステレオ音源というものを耳にしている。音楽もしかり、動画もしかり、もちろんSkyもしかり。右に焚火があれば、焚火の音が右から聞こえる。左に私がいれば、左から美声が聞こえる。これがステレオだ。
私が動画を作る時は5.1チャンネルという音源を作る。これはステレオの上位互換といっても差し支えない。
簡単に言うと、左右に加えて前後、そして音の距離までもを再現した音響システムです。
近頃の私のSky動画は基本5.1チャンネルなので、イヤホンなどのオーディオ機材で視聴すれば音の奥行きを感じ取れるはずだ。できれば5つのスピーカーで聞いてほしいものです。
余談ですけど、今後は上下の音も実現したいと思っている。
さて、音の設定は終わった。実に心地の良い動画が出来た。しかし、Twitter(旧X)でしか私の動画を見ない人はこれらの音に気付かない。なぜならTは5.1チャンネルに非対応だからだ。
血涙が止まらない。
故に音楽を入れて、プラットフォーム問わず最高の視聴体験をできるようにしたい。
よくフリー音源を使用するが、動画時間と会わない、雰囲気がバカすぎる等の問題が起きたときは自分の演奏を録音する。
雨にはなんだかピアノかギターが合う気がする。ピアノはペダルが息をしていないので今回はアコースティックギターを使います。
音楽は立体音響を入れずに普通に流します。どの場面でもボリュームが変わらないように気を付けながら。
全てのデータを纏めて完成。最後に完成データを書き出すのですが、私はここでフレームレートを選びます。一秒間に何枚の映像が流れるかを数値化したものです。わかりやすく言うと、どれだけ映像がぬるぬるかです。
私の好みは15~24fps。
分かる人は分かるのですが、これってかなりカクカクした映像です。なぜこれにするのかというと、24fpsはもっとも映画に使用されることの多いフレームレートなのです。かつて使用していた映画用フィルムテープが一秒間に24枚送られていたのが理由です。
完成した映像をYouTubeとXに載せて自動投稿の時間を設定します。18時はきっと皆夕飯で見てないだろう、20時はきっと皆ドカ食い気絶してるだろう。19時にしよう。流しながら寝落ちて、そのままリピートされて再生数が増えたらうれしいな。
さてデイリーしますか。
「もしもし、あ、すいません、期日って伸ばせますか?」