星の子の、ある星の子との思い出のお話。
星の子達が喋ります。
夜空にそっと手を伸ばす。
届きそうで届かない。
「何してるの?」
「うわ!」
隣から急に声がして思わず声が出る。
イタチの面を付け、僕より少しだけ背丈が低い星の子がそこにはいた。
「……何してるの?」
イタチ面の子は、無言の僕を見てもう一度声を発した。
「……別に……」
曖昧に答えを濁す。
「ふうん……?」
小首を傾げながらも、イタチ面の子はそれ以上は追求しないようだった。風がその子の長い髪を撫でていく。
ここは星月夜の砂漠の灯台の上。辺りは僕ら二人しかいないため静かだ。
僕はもう一度手を夜空へ伸ばした。
……届くわけないことは分かっている。
横を見ると、座って小箱を開けて中身を探っているイタチ面の子が目に入る。
「ほら」
暗いだろうとランタンをかざしてやると、ん、と返事が返って来る。
両手に収まるほどの大きさの小箱の中には綺麗な貝殻がいくつも入っていた。以前貝殻を集めるのが趣味だと言って見せてくれたことがある。
イタチ面の子はその貝殻が入った箱の中身を今一生懸命探っている。一体何を探しているのだろうか。
「あったあった!」
しばらくして、顔を輝かせてその子は一つの貝殻を取り出した。
その貝殻を僕の手の平に載せた。
「はい」
その意図がよく分からず、手の平の貝殻をじっと見る。薄い桃色で光沢がある。
それはとても綺麗な貝殻だった。
「あげる」
僕は視線をイタチ面の子に向けた。
「え?」
「とっておきの貝殻! 持ってて!」
仮面越しからでもわかる満面の笑みでその子は言った。その子の笑顔は僕には陽光の日差しのように眩しい。
余程僕の顔が暗かったんだろう。『元気を出して欲しい』——その子の真意が伝わった。
僕はずっと「あの子」が来るのを待っていたのだった。

雨林の焚き火のそばで休んでいた時のことだった。
雨音に包まれながら、精霊から貰ったばかりの楽譜を広げ、ギターを弾いてみる。
「うーん、難しいな……」
つい独り言がもれる。その時、パリン、と音がした。誰かがケープのエナジーを切らしてしまったようだ。
お人好しと呼べるほど世話焼きでもない僕は、ギターを持ち直す。
「まあ、ここは灯籠も至る所にあるし、なんとかなるでしょ……」
言い訳のように独り言を重ねる。
——しかし。
パリンパリン、とその音は止まらない。
「……様子だけでも見てみよう……」
ギターを背負い直し、ケープを広げる。
確か、あの辺り——川の中に、星の子がいた。
「んー! んー!」
岩と岩の間に挟まってしまったらしい。助けなきゃと手を伸ばす。
「つかまって!」
その子は僕の胸辺りの背丈で、思いの外引き上げるのはたやすかった。ゲホゲホと咳き込むその子の背中をさすりながら声を掛ける。
「大丈夫……?」
「うん、なんとか……助けてくれてありがとう」
キツネの面の奥で呼吸を整えて、その子は僕に向かって礼を言った。
その言葉に若干の罪悪感を感じる。すぐに駆けつけていれば、もっと早く助けられたのに。
「……何でそんな顔してるの?」
キツネ面の子が僕にたずねた。
すぐに顔に出てしまうのは僕の悪い癖だ。僕はその子から顔をそらした。
「いや、何でも……ごめん」
その子は不思議そうに僕の顔をじっと見つめていた。
雨林で助けたキツネ面の子は、それから頻繁に僕の元へ訪れるようになった。その子は第一印象とは違ってとても活発な子だった。
「やっほー! 暇なら今から草原に一緒に行こうよ!」
そう言って僕に手を差し出す。出会いの時とは反対に。
肩辺りまでの髪が揺れる。
「見て! この時間になると、ここにはキノコが輪っかみたいに生えてくるんだ!」
別の日には。
「今日は魔法の方舟の所に虹が出てるよ! 一緒に見に行こうよ!」
ずっと焚き火のそばしか知らなかった僕に、その子は世界を広さを教えてくれた。

数週間が過ぎたある夜、僕たちは花鳥郷の高台で各々の部屋に灯る明かりを眺めていた。キツネ面の子がふと立ち上がり、片手を空に伸ばす。
「どうしたの?」
疑問がそのまま口から出る。
「んー、ボクでもここからなら届くかなって。やっぱり届かないや」
その子は少し困ったような顔で笑った。
——星に? ……どうして?
頭によぎった疑問は声にならずに宙に消える。
……その子が少しだけ寂しそうな顔をしていたから。
僕はそれ以上踏み込めなかった。
その日を境にキツネ面の子の姿を見ることはなくなった。その子が居そうな場所を探し回ったけれども会えなかった。

それから1ヶ月。
こうして僕は今、星月夜の砂漠の灯台の上にいる。
イタチ面の子がもう寝る時間だと言って帰って行った後も、僕は一人で灯台の上にいた。
静かな風が肩をそっと撫でていく。今は吹き飛ばして欲しい気分だった。
楽譜を広げ、ギターを鳴らす。キツネ面の子と出会った時に練習していた曲も、今では上手く弾けるようになった。
「今まで焚き火のない所で弾くことなんてなかったな……」
今までだって何人もの星の子との出会いと別れがあった。それはこれからも続くだろう。
けれど、あのキツネ面の子のことは頭から離れなかった。
あの最後に見せた寂しそうな顔が忘れられない。
今頃どこで何をしているのだろう。今も寂しい顔をしているのだろうか。ひとりぼっちじゃないといいな。もう、会えないのかな……
ギターを弾きながら、色々な考えを巡らせる。
パチパチパチパチ……
弾き終えた後、後ろから拍手が聞こえた。
上手く弾けるようになったとは言え、まさか誰かに聞かれていたなんて。少し恥ずかしかったものの、礼を言おうと拍手の音がした方へ振り返った僕は目を瞬かせた。
そこにいたのは、うんと背の伸びた、キツネ面の——
「たっだいまー!」
突然ぎゅうと抱きつかれて、慌てて倒れないように踏ん張る。
「え……? え!?」
言葉が出ない。どうしてとか、ずっと寂しかったとか、色々な言葉があるのに。
「……おかえり」
ぎゅっと力を込める。質問責めは後からでいい。今はこれだけで。
#SkyWriteCember企画に投稿した小説を加筆修正しています。