隠者の住処
– いてつく、あたたかい場所 –
隠者の住処は、峡谷の最奥、『隠者の峠』にある廃墟だ。
まずはそこに至るまでの景観の話をしながら進んでいきたい。
前置きしたいのが、今回は冗長な癖に『廃墟』そのものの話はかなり少なくなりそうだ。廃墟から見えてくるものが多すぎて、その話をたくさんしたいと思う。

雪が降り積もる夢見の町は、その雪量に反して暖かな印象の庶民街である。
街の一角には劇団員を目指す若者たちを養成する『夢見の劇場』や、あらゆる楽器を楽しめる『音楽堂』もあり、パフォーマーが住まう活気のある街だったのだろうと想像できる。
この街を通り過ぎると、2方向へと伸びるリフト乗り場へと続く。

豪奢な円形劇場へと向かう右のリフトを横目に、左の、先の見えない谷へと登っていくリフトへ。


リフトを乗り継ぎ、光の届かない谷へ入る。
巨大な氷柱と凍てつく岩壁。
夢見の町の暖かな印象の雪とは違って、どこまでも冷たく凍りついているような場所だ。聞こえてくるのは身震いするほど冷たい風の音だけ。ここほど、寒い印象の場所はないかもしれない。
(こんな場所に住む者がいたとしたら、進んでそうなったはずはない、きっと追いやられてこんな場所へ来たに違いない)…そんな妄想さえ起こしてしまうような場所だ。
しかし、リフトを降りて、階段を登ると。


突然開けた視界に、暖かな夕陽の色が満ちる。
本当に突然、エリアの印象が真逆へと変わるのだ。ここへ初めて訪れた時、息を止めてその反転した色彩を見つめていた。

そしてここが、隠者の住処である。すぐ近くには傾いだリフトの柱。
星の子が炎を灯せば、ふもとの鳥の形をした大きなリフトは未だけなげに動く。しかしこの廃墟へ続く区間のリフトは倒壊していて、おそらくこの廃墟の主人が住んでいた当時からそうだったのだろうと思う。『誰にも使われなくなって放棄された場所』、そういう場所にあえてやってきて家にしたのだ、ということだ。

この廃墟の主人はハグ好きの隠者という。雪山奥に住む毛むくじゃらの大男…イエティと呼ばれることもある彼だが、まさしくである。そしてこのエリア名に入ると副題で教えてくれる、『心優しき隠者』という言葉で、この廃墟の主人がどのような人物であったのかがよくわかる。

家の中の様子。室内の全てに、きらきらと氷の粒が光っている、凍りついたベッドが印象的だ。大きなベッドに広い室内だが、主人である隠者にとっては、かなりこじんまりとした部屋だったことだろう。息まで凍りそうな程に冷たい室内。まるで大きな冷凍庫の中のようだ。
しかし、

火を灯すと。隠者の峠を抜けた瞬間のように、一気にこの廃墟は表情を変える。暖かな色へと変わった部屋で、家具にまとわりつく氷の粒は、まるで星屑のようになる。
後述するけれど、この『色彩と印象の反転』こそ、この廃墟を見る上で最も面白い部分だと思う。

ではまず、部屋の最奥の崩れた棚を見ていく。壺に、分厚い布のようなもの。
極寒のこの場所で住んでいくための備蓄だろう。一時的に隠れている、というより、“長期にわたって棲み続けている”と思わせる品数だ。

続いて、玄関脇の壁面。
よく見慣れた灯籠と杖。しかしかなり大きなサイズだ。杖に関しては、玄関脇に2本あることから、外出時、雪原を歩く際ストックのように使っていたのだろうと思われる。この家へ続くリフトが壊れていることもあって、ストックは必需品だっただろう。

反対の壁。台所か作業机だったような箇所と、その右側には、この廃墟を象徴するアイテムが飾られている。

隠者の腰布と同じ模様の大きな布と、大斧2つ。
これに関して、公式Discord内で投稿された情報を、箇条書きで引用させていただく。(引用元:ティーさんのポストより)
● 「ハグ好きの隠者」の家に斧があるのには理由がある
● 実用的な目的でも、危険から身を守る目的のものでもない
● 夢見のキャラクターの背景には共通するテーマがあり、各キャラクターにはそれぞれ『以前やっていた仕事』がある
● 彼らの衣装は、アイススケートの衣装と『以前やっていた仕事』に関連したユニフォームをミックスしたデザインとなっている
※私の確証のない想像で、考察ではないことを前置きする。
この情報をあらためて見た時、私は、『隠者は以前、円形劇場で行われる剣闘や猛獣狩りのような見せ物のパフォーマーをしていたのではないか』、と思った。
確証は今や何もない。ただ、円形劇場=コロッセオ(ローマの円形闘技場)のイメージと、腰布や角といった衣装が、かつてコロッセオで闘いを見せ物としていた剣闘士の衣装にそっくりだと思っただけ。
また、夢叶う季節で隠者が案内人へ授けた教えは“勇気”だ。
峡谷の構造は、ローマ帝国のパレードやコロシアムを反映して設計された(アートブックP114)
峡谷を訪れると、傲慢さと、レースやコロシアムのエンターテイメントのために操られる生き物たちの、暗いメカニズムについて手がかりが見つかる(アートブックP117)
夢かなう季節の当時には、こんなことは想像もしなかった…というより、綺麗な側面だけが見えていたから、口にしてはいけないような気がした。
ただ、いろんな季節を通り過ぎて、私たちはそこで費やされた光の生き物たちのことも、綺麗なことばかりではなかった文化も、精霊たちの挫折や絶望も知っている。
今は、『そのような職業や娯楽も、あったのだろうな』と、ストンと腑に落ちている。
怪力自慢の大男、剣闘士として、円形劇場でパフォーマンスをしていたのではないか。
本当は優しい心をすり減らしながら、パフォーマンスしていたのではないか。
折れた角は、パフォーマンス時の事故で破損したのではないか。
耐えかねて辞める選択をしたときに、こんな秘境へ移り住んだのではないか。
もう誰も傷つけないために、此処を選んだのではないか。
繰り返すが私の想像である。
当時は大斧を使ってジャグリングパフォーマンスでもしていたのだろうと思っていたが、それならば彼はこんな場所を選んで住まないような気がした。
それに、このエリアや廃墟の持つ『印象の反転』と言う性質は、『恐ろしく野蛮な剣闘士』⇄『心優しくふわふわで臆病な大男』と言う二面性に、ピッタリと当てはまると思ったのだ。

音楽家や演舞家、劇団員。町の誰もが憧れの眼差しで見上げる円形劇場に、背を向けて。逆方向へ伸びるリフトの果ての峠へ向かった隠者。

彼の家は此処にあるのに、彼の遺骸は、夢見の町の隅っこで見つかる。

避けてはいたけれど、人のことは、大好きだったのだろうと思う。
夢かなう季節の様子でも、彼を避けるひとなんて誰もいなかった。
『追いやられてあんな秘境へ』、だなんてとんだ勘違いなのだ。

此処は、独りを選んだ、ひとが大好きな優しい大男がいた家。
王国で一番寒いこの場所にある、王国で一番暖かい廃墟である。
